とびひ(表在性皮膚感染症)


 主として夏に幼・小児がかかる皮膚の細菌感染で、伝染性が強く、プールや乳幼児保育施設で接触する者の間で伝染する。他人にうつったり、身体各所に拡がったりすることから”とびひ”とよばれる。暖房が行きとどいた最近は冬でもかなり見られるようになった。まれに学童や成人もかかることがある。

原因:

 皮膚表層に黄色ブドウ球菌(黄色ブ菌)、またはA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)が感染して発症する。大多数は黄色ブ菌によるが、最近は有名なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による伝染性膿痂疹が増え、治療に手間取ることが多い。また、アトピー性皮膚炎の患者に発症しやすい。(アトピー性皮膚炎の症状にリンク)

症状:

 水疱、びらんを特徴とする水疱性膿痂疹と、厚い痂皮を特徴とする痂皮性膿痂疹に大別される。

A. 水疱性膿痂疹黄色ブ菌による)
 
わが国における膿痂疹のほとんどが黄色ブ菌を原因菌とする水疱性のものである。表皮剥脱毒素(ET)を有する黄色ブ菌の角層への直接感染により、浅い透明な水疱が形成される。水疱は容易に破れてびらんとなり、水疱内に存在する多数の黄色ブ菌が近隣および遠隔部位に”とびひ”して次々に伝染する。時間とともに炎症症状を伴ってくる。個々の病巣は10日前後で乾燥し治癒するが、新旧の皮疹が混在する。びらんの経過中に表面に痂皮が比較的厚く付着して、痂皮性膿痂疹に近い像となる。
 感染経路として、
a. 
鼻腔粘膜、外耳道、咽頭、皮膚に常在する黄色ブ菌による自家感染、
b. 伝染性膿痂疹の患者や環境中に存在する黄色ブ菌との接触による外因性感染のルートがある。

(MRSAによる伝染性膿痂疹)

発赤が少なく一見痂皮化し、治癒に向かっているように見えるびらんが拡大すると共に、周囲に小水疱を新生し遷延する。治療に手間取る。
早期より細菌培養をする必要あり。


 

B. 痂皮性伝染性膿痂疹(溶連菌による)
 
少数例であるがA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)を原因菌とする膿痂疹もある。小児に限らず、四季を通じて発症する。はじめは小さい水疱であるが、次第に大きくなり、膿疱化し周囲は強い発赤を伴う。膿疱は破れてびらんし、厚く堆積する痂皮に被われる。皮疹は一気に多発する傾向があり、顔面や露出部に多い。疼痛、発熱など全身症状を伴うこともあり、溶連菌の性質から腎炎を合併することもある。アトピー性皮膚炎に合併することが多い.

治療:

A. 局所療法

 水疱は消毒後水疱被膜をハサミで破り、水疱内容を除去し、菌に対して有効な抗生物質軟膏を塗布してガーゼで覆う。亜鉛華軟膏を重層(重ね塗り)することもある。

B. 全身療法

 有効な抗生物質の内服を行う。MRSAに対しては点滴注射を行うこともある。

家庭での注意:

 軽、中等症のときはシャワー、手洗いなどによる身体の清潔に心掛ける。これにより病変の拡大を防ぐことができる。お湯と石けんでの洗浄が家庭でできる消毒である。使用したタオルは家人のとは別に洗濯し、日光消毒する。十分に日光に当てれば特に消毒薬は必要としない。

保育所と学校の管理:

・水疱性膿痂疹は乾燥するまで保育園など休む。
・痂皮性伝染性膿痂疹は膿疱が消失し痂皮が脱落するまで休む。


伝染性膿痂疹とブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)

 伝染性膿痂疹は黄色ブドウ球菌黄色ブ菌)、あるいはA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染による。黄色ブ菌によるものは水疱型となるが、これは皮膚局所に感染し、表皮角層を貫通して侵入した黄色ブ菌が産生する表皮剥脱性毒素(ET)が顆粒層を中心とする部位に作用して角層下に水疱を生じるものである。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は遠隔部位(咽頭、鼻腔など)に感染・増殖した黄色ブ菌の産生するETが血流を介し全身の皮膚に達し、広範な熱傷様の表皮剥離を起こすものである。したがって水疱型膿痂疹とSSSSとは同一原因の病気であるが、二者の主な違いはSSSSでは初発水疱が無菌であること、しかしSSSSがはるかに重症で入院加療が原則であることである。