アレルギー学会の話題


1. 結核はアレルギーを抑えるか?  

 春先にピークをむかえる花粉症はここ2、30年で激増したアレルギー性疾患で、第二次大戦後に対照的に激減した結核との関連がアレルギー学会の最近の話題になっています。
 アレルギーは人に備わっている防御機構である免疫反応が、本来無害な物質に対しておこす有害な過剰反応です。免疫反応を制御するのはTリンパ球で、これにはTh1とTh2の2つのタイプがあり、Th1は主に細菌やウィルス、ガン細胞などを攻撃、破壊して体を守るタイプです。Th2は抗体という目印を侵入した外敵である抗原につけ、Th1タイプのリンパ球や免疫システムの攻撃を助けて抗原を排除します。両者は互いに牽制しながらバランスをとり、体を守っていますが、バランスがどちらかに長いあいだ傾くと一方が過剰となり、体に不具合が生じます。花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息の多くがTh2タイプが優位な反応で、結核はTh1タイプの反応です。生活環境の向上によって結核をはじめ多くの感染症は減少し、感染しても抗生物質によって早期に治癒するようになった現代は、Th1タイプがあまり活躍しなくとも済む、クリーンな環境になったことを意味します。このような環境がTh2タイプのアレルギーが増えた原因なのでしょうか?
 結核菌の存在がTh2タイプのアレルギー反応を起こり難くしているとしても、結核は恐い病気です。現在でも日本は結核の有病率が欧米の3倍も多く、毎年3千人以上が亡くなっていますし、欧米ではエイズによる結核の増加が警戒されています。

2. アトピー性皮膚炎の治療への試み 

 Th2が優位なアレルギー疾患であるアトピー性皮膚炎にTh1を誘導し、治療しようとする試みが行われています。その一つがインターフェロン(IFN)の応用です。
 IFNは細胞がウィルスに感染したときに産生する抗ウィルス物質で、ほかに抗腫瘍作用、抗体産生抑制作用、外敵に対するリンパ球のキラー活性を強めるなど、さまざまな生物活性を持ち、肝炎や白血病、ある種のガンの治療に使われています。アトピー性皮膚炎に試験的に用いたデータによれば、IFN注射により22週間以内に重症のアトピー性皮膚炎が治癒し、I年後にも再発はなく、良い成績を示しています。期間が1年と短いのは現在も観察中であるためです。しかし、IFNは高価な薬であり、注射回数も多く、アレルギー疾患には健康保険は適用されていません。また抑うつ状態、肺炎や自己免疫疾患を誘発するなどの特有な副作用に注意しなければなりませんが、重症のアレルギー疾患治療への新しいアプローチになることが期待されています。

 3. 寄生虫感染はアレルギーを抑えるか 

 結核と同様に終戦後激減した病気に寄生虫感染症があります。
なかでも回虫感染率は戦前には50%と国民病であったのが現在は0.02%にすぎません。動物実験によると、アフリカから輸入されたチンパンジーをスギ花粉で感作しても鼻アレルギーは発症しないが、駆虫薬で腸内の寄生虫を一掃すると発症します。
 花粉症は花粉に対するIgE抗体が鼻粘膜の肥満細胞に結合し、侵入した花粉に肥満細胞が障害物質を放出して花粉を排除しようとする、一種の防御反応が生体を障害するものです。一方寄生虫感染では寄生虫に対する大量のIgE抗体がつくられ、肥満細胞に結合しています。このIgE抗体は寄生虫から生体を守るように働きます。この状態でスギ花粉に感作されれば、スギ花粉に対するIgE抗体が作られます。普通ならこれでスギ花粉症が発症しますが、すでに寄生虫に対するIgE抗体が大量に結合している肥満細胞にはスギ花粉に対するIgE抗体と結合する余力はなく、花粉症はおこらないものと考えられます。

  寄生虫に感染せずにアレルギー疾患を免れる方法があるかどうか、研究が続けられています。

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