アトピー性皮膚炎に限らずアレルギーの症状はアレルギー反応だけで起こるのではありません。
アレルギー反応
自律神経異常
心理的要因
環境汚染
気象
細菌やウイルスの感染
などの様々な要因の水が一杯入っているアレルギーのコップがあると考えてください。このままでは水はこぼれませんが、1つまたはそれ以上の要因が増えたときに初めて水がこぼれ、アレルギー症状が現れます。
この考えは治療面でも大事で、抗原を除去することはアレルギー疾患の治療の基本ですが、アレルギー反応があってもアレルギー症状を起こさせないことが大切です。そのためにはアレルギー反応以外の要因を減らす、したがってアレルギーに対する治療と同時に皮膚の手入れ(スキンケア)を行うこと、環境を整備すること、バランスのとれた食事をとること、運動を十分に行い普段から薄着の励行をして自律神経を鍛練することなどが必要です。
アトピー性皮膚炎の治療は次の通りです。
1. 皮膚の局所療法(スキンケアを含む)
2. 抗アレルギー剤内服
3. 抗原回避(環境整備)
4. 補助療法
1. 皮膚の局所療法(スキンケアを含む)
イラストのように、アトピー性皮膚炎の原因には皮膚のバリア機能が低下し、皮膚の過敏性が亢進したドライスキンの状態とアレルギー反応による炎症とがあります。アレルギー炎症に対して古典的外用剤、ステロイド剤、抗サイトカイン薬、免疫抑制剤などにより炎症を収めます。ドライスキンによるバリアー機能障害に対する治療法はスキンケアです。皮膚を清潔に保つスキンケア、乾燥に対するスキンケアが重要で、バリアー機能を回復することにより、皮膚の過敏性の亢進や抗原のさらなる侵入を回避でき、アトピー性皮膚炎の悪化を防ぐことができるからです。
皮膚の局所療法はアトピー性皮膚炎にとって最も重要な治療ですので、次のページで詳しく説明します。
2. 抗アレルギー剤内服
現在のところ利用できる抗アレルギー剤は1型アレルギー反応に対する抗アレルギー剤であり、肥満細胞や好塩基球における化学伝達物質の合成、放出を阻害したり、拮抗する作用があります。またIgE抗体産生抑制作用を持つ薬も最近発売されましたが、4型アレルギー反応に対する効果はなく、内服用の抗アレルギー薬には現在のところ、補助的な効果しか期待できません。それでも皮膚の痒みをある程度低減したり、ステロイド外用剤の使用量や強さのランクを落としたり、保湿剤のみの使用で湿疹をコントロールできることもあります。
ステロイドは正式には副腎皮質ステロイドホルモンといわれ、正常な状態でも少量が副腎から分泌されるホルモンで生体の代謝、維持に必須のホルモンです。化学的に合成されたものが薬として用いられます。ステロイドはマクロファージの抗原提示機能を阻害したり、細胞核内の遺伝子情報を調節することにより抗炎症蛋白を産生し、1型〜4型のいずれにも強力な抗アレルギー作用を発揮する半面、免疫抑制作用、副腎抑制作用や成長抑制作用のため、小児には内服薬としては処方されることは先ずありません(軟膏やクリームなどの外用薬では余程の大量を使わないかぎり、これらの副作用は現れません)。
3. 抗原回避(環境整備)
血液検査ではRASTスコア2で13%、3で30%、4で50%、5で85%の確率で原因抗原とみなしてよいが、食物抗原の場合には負荷、誘発試験陽性のときのみ除去すべきです。
特異IgE抗体陽性率の頻度が高く、他の食品と較べて抗原性が強く、アトピー性皮膚炎の原因抗原であることが多い鶏卵については次のように指導しています。すなわち、家族にアトピー性疾患があり、患児に中等度以上の湿疹を認め、卵白RASTスコア2以上の場合は1才までは卵、および卵製品の摂取をやめる。卵のみの制限ならば代替食品もあり、さほどきびしい制限ではありません。1才ごろに症状が軽快し、RAST値が低下傾向にあれば、加工食品より徐々に摂取して様子を見ます。多数の幼児は腸の機能が強くなる2才ごろには卵アレルギーから卒業できますが、これらの幼児のうち5〜10%が5才までにダニ特異IgE抗体が陽性となります。ダニ対策としては吸入性、および接触性抗原のヒョウヒダニの餌になるヒトのフケ、アカ、毛髪の清掃が環境整備の第一歩です。殺ダニ剤、ダニ忌避剤は長期使用時の人体に対する安全性が確立されていませんので、使用しないほうがよい。もっとも有効なのは市販の吸い込み仕事率210W/hr以上の電気掃除機(強力タイプ!)を用いて寝具の場合は表と裏の両面から、寝室の床も1平方メートルあたり20秒くらいかけて掃除することで、これを最低2週間に1回行うとダニ数を減少させ、この状態を維持できます。また、カーペットやぬいぐるみはダニの温床とも云うべきで、ダニ特異IgE抗体が証明された場合には使用を止めるべきです。
愛玩動物のイヌ、ネコ、小鳥、ウサギなどの垢、体毛、羽、唾液、尿などがアトピー性皮膚炎の原因、あるいは増悪因子となることがあるので注意が必要です。
4. 補助療法
a ブドウ球菌消毒スキンケア法
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚表面にはブドウ球菌、とくに伝染性膿痂疹(とびひ)の原因となる黄色ブドウ球菌が高い頻度で検出され、黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の増悪因子であると言われています。殺菌対策として抗生物質がありますが、長期使用により副作用やMRSAのような耐性菌が発生する恐れがあります。これに対して手術の消毒に使われるポピドンヨード(イソジン)を用いるスキンケア法にはこのような副作用は少なく、有力な黄色ブドウ球菌対策です。改善率8割といわれ、湿潤性や苔癬化した皮疹には非常に有効です。根治的療法ではありませんが優れた補助療法です。消毒のあとは皮膚バリア機能を維持するためのスキンケアが必要です。
方法:
イ 皮膚病変部に10%ポピドンヨード液(原液)をガーゼにしみこませ、塗布します。
ロ 2〜3分後に温水シャワーなどで洗い流します。
ハ 重症ではステロイド軟膏を(1日1回のみ)、軽症には非ステロイド軟膏や保湿剤(後述します)を塗布します。
ニ これを1日2回以上4回まで行います。
問題:
イ 皮膚科から支持されていない。
ロ 時にしみて痛がる。
ハ 接触性皮膚炎を起こす可能性が少しある。
ニ ヨードの甲状線に対する影響を考え、乳幼児には注意が必要。
ホ ヨードアレルギーに注意。
b 紫外線療法(PUVA療法)
ソラレン(Psoralen)という光に対する感受性を高める物質を内服、または塗布した後、長波長紫外線(UVA)を一定時間照射する方法です。紫外線照射によってアレルギー反応に関与する細胞の働きを抑制することにより、アトピー性皮膚炎が軽快するのではないかと推測されていますが、詳しい作用機序は分かっていません。本法の特徴は通常の治療に抵抗するような難治例に有効であることや、長期間の軽快が得られることで、ステロイドの弊害を少なくできるメリットがあります。反面、発癌性や白内障の心配があり、あくまで通常の治療が無効なときにのみ行うべきで、小児には行われていません。
C EPA療法
ヒトが体内で合成することができず、食物から摂取しなければならない脂肪酸にはn-3系とn-6系の脂肪酸があり、必須脂肪酸と呼ばれています。n-6系脂肪酸はリノール酸として肉類や植物油に含まれています。n-3系脂肪酸はアルファリノレン酸としてシソの実やエゴマ油に、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)として魚介類、とくにイワシ、サバ、サンマ、マグロなどに大量に含まれ、身近な必須脂肪酸です。EPAには抗血栓、抗動脈硬化作用があり、魚肉の摂取量の多いエスキモーは肉類摂取量の多い白人に比べ心筋梗塞が明らかに少ないことは有名です。DHAは、眼や脳の細胞機能の発達に重要な役割を演じていると考えられています。
免疫、アレルギーの面からはn-6系脂肪酸からは炎症反応やアレルギー反応を起こす力の強いプロスタグランジン2、ロイコトリエン4などの生理活性物質が生合成されます。n-3系脂肪酸からは逆にこれを抑制する生理活性物質が生合成されます。n-3系とn-6系はいずれもヒトには必要な脂肪酸ですが、両者は競合関係にあり、互いのバランスが問題になります。
近年のアレルギー疾患の増加原因の一つに食生活の変化が挙げられています。鳥獣肉類、油脂食品、乳製品摂取増加と魚介類の摂取不足によりn-6系脂肪酸の摂取増加とn-3系脂肪酸の摂取不足が生じて、脂肪酸組成や脂肪酸代謝に影響を及ぼし、アレルギー反応を起こしやすくなったという意見があります。アルファリノレン酸、EPA、DHAを含む健康補助食品やEPA製剤の内服を続け、50%にアトピー性皮膚炎が改善したという報告があります。肉類の摂取量を減らし、魚介類の摂取量を増やす努力をしてみてはいかがですか。